最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)366号 判決 1959年6月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人弁護士下山四郎の上告理由第一の一について。
しかし、原判決認定のような事実関係の下では、上告会社において所論(三)の建物全部を占有していたものと認められないこともないから、原判決が上告会社は右建物を占有することにより、判示(一)(二)(但し(一)については所論の一部を除く)の土地全部を不法に占有するものとした判断は固より正当であり、所論の違法は認められない。所論引用の判例は本件に適切のものではない。所論は原判示と異る事実関係を主張して論議するに過ぎないものであつて、採るを得ない。
同第一ノ二について。
建物の所有による土地の不法占有に基づく損害賠償については建物の譲渡の登記の時期に拘らず、事実上の占有状態によつて決すべしとすることは引用判例の趣旨とするところで、正に所論のとおりであるが原判決は単に登記の時によつて損害賠償責任の帰属者を定めたものではなく、売買後登記までの前主東洋工機及び神戸の占有の態容を認定し、これを理由として右両者に損害金の支払を命じ、登記後においては上告人星野の建物所有による土地占有の事実を認定しこれによつて星野に対し損害金の支払を命じたものであり、上告会社については登記の時に拘りなくその占有状態を認定しこれによつて損害金の支払を命じているのである。それ故原判決には所論の違法なく所論はひつきよう原判決の趣意を正解しないものであつて採るを得ない。
同第二ノ一、二について。
所論覚書の趣旨は必ずしも所論のように解釈しなければならないわけのものではなく、そのように解釈しなければ経験則に反するものと認めなければならない道理があるわけのものでもない。そしてまた、原判決認定のような事実関係である以上は所論藍沢辰巳が(三)の建物全部の占有者であつたと認定できないわけのものでもなくそのように認定したからといつて経験則に反するものとも断定できるわけのものでもない。所論は自己の立場からする独自の見方かあるいは原審の事実認定に対する専権行使を非難するに帰着するものであつて、いずれも採るを得ない。
同第三について。
所論は自己に対する判決について法令違反をいうものでなく、不服申立のない神戸に対する判決について判断遺脱を云々するものであつて、適法な上告理由と認められない(上告人星野は(四)の建物の収去とその敷地の明渡及び神戸の不法占有による損害金支払債務に該当する部分について神戸の訴訟の引受を命じられたものに外ならないものと解すべきであり、従つてそれ以前の損害金債務については神戸のみが当事者であり上告人星野において神戸の訴訟のため防御方法を提出し得ないし、提出してもその効力のないことは云うまでもない)。
よつて、民訴三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)